配偶者Bの遺産分割協議成立後、換価未了・代金未払いのまま被相続人Aが死亡したケース | 作成日:2026-06-16
本件は、A死亡時点でAが持っていた財産を法的にどう捉えるかで、論点②③④の答えがすべて連動して変わります。出発点は次の事実認定です。
Aが持つのは「B遺産そのものの共有持分(実質1/2)」。
「全部Cが取得」は換価を進めるための便宜的な単独名義にすぎず、実質は共有のまま売って代金を分ける、と見る整理。代償金額が売却額に連動している点はこの説を後押しします。
Aが持つのは「Cに対する代償金請求権(金銭債権)」。
協議成立(R6.8)の時点でCが現物を単独取得し、AはCに対して「代金の1/2相当」を受け取る債権を取得した、と見る整理。金額は売却額連動で未確定でも、債権自体は発生済みと考えます。
※ 実務では「代償金額が特定されず売却額連動の場合は換価分割と認定される可能性がある」とされますが、代償債務として構成する協議書も存在します。本件協議書の現物文言の確認が、結論を決める前提です。
換価代金の分配請求権という金銭債権は、売却が実行されて初めて現実化します。(a)換価分割説に立つと、換価未了のA死亡時点でAが持つのはB遺産の共有持分(民法898条)と考えられます。(b)代償分割説に立つと、協議成立時に代償金請求権(金銭債権)が既に発生しており、金額が未確定でも債権としては存在する、と整理します。
相続税は相続開始時(A死亡時)の現況・時価で評価します(相法22条)。したがって評価すべきは「将来いくらで売れるか」ではなく、A死亡時点の財産です。(a)なら共有持分を評価通達(路線価・固定資産税評価額等)で評価、(b)なら代償金請求権(金銭債権)を評価します。「将来の売却代金そのものを計上する」という発想は、相法22条の評価原則とは必ずしも一致しない点に注意が必要です。
相続開始時の時価で評価するのが原則で、後日の売却額を遡って相続開始時の財産価額に置き換える制度はありません。売却額は「相続開始時の時価」を裏づける一参考にとどまります。なお更正の請求・修正申告(相法31条・32条)が問題になるのは「未分割→分割確定」「取得割合の確定」の局面であり、売却額の確定とは別の話です。
換価の有無は相続税評価額に影響しません。A死亡時の持分の時価(または債権額)で評価・申告します。換価はあくまで遺産分割(取得割合の実現)の手続上の問題であり、「売れていないから計上できない/課税されない」という関係にはなりません。
前述のとおり事実認定の問題です。仮にBの相続が課税対象だった場合(数次相続で一次も課税)、各相続開始時点ごとに別々に評価します(相法22条)。評価額の引継ぎ・連続性はありません。なお相次相続控除(相法20条)は、前の相続(B)でAに相続税が課されていることが要件のため、本件のようにBが非課税(相続税ゼロ)であれば、A相続での相次相続控除は適用余地がありません(タックスアンサーNo.4168)。
| 論点①の整理 | 論点②の計上方法 |
|---|---|
| (a) 換価分割=持分 | Bの個別財産(土地・建物・預金等)をA持分でA死亡時評価額により個別計上。「未収入金一括」ではない。 |
| (b) 代償分割=金銭債権 | 未収入金(代償金請求権)として一括計上(相基通11の2-9)。代償金額が時価連動の場合は相基通11の2-10の調整計算(A×C/B)が入り得る。 |
相談者の「未収入金一括計上」案は (b)代償分割説に立てば妥当です。一方 (a)換価分割説に立つなら持分計上へ補正が必要になります。①の整理次第で分岐 社内に協議書・財産目録・資金移動表を保存する方針は、どちらの整理でも適切です。
| 論点①の整理 | 論点③の扱い |
|---|---|
| (a) 換価分割=持分 | B名義預金もA死亡時残高×持分で個別評価(相法22条、財基通203)。B死亡〜A死亡間の引出しは資金移動を確認し、費消されず残れば手許現金等として計上。Cの取込みがあればAC間の精算(債権債務)で調整。 |
| (b) 代償分割=金銭債権 | Aの財産は「Cに対する債権」なので、個別の預金残高はAの財産として直接は評価せず、Cが管理するB遺産(引出し分を含む)が分配の母数となり、AC間の債権債務の中で処理される。相談者の「債権債務に解消される」という見立ては、この説では筋が通る。 |
相談者の「A死亡日残高評価+資金移動確認+手許現金」という基本姿勢は妥当です。妥当 「引き出したものは債権債務に解消されるのでは」という鋭い見立ては、(b)金銭債権説を採った場合の整理として正しい方向です。いずれにせよ、B死亡日残高・A死亡日残高・その間の主要な出金を通帳等で確認することが実務上重要です。
譲渡所得の収入計上時期は引渡日が原則(納税者の選択で契約日も可)です(所基通36-12)。本件は換価未了=契約も引渡しもないため、A死亡時点で譲渡所得は実現していません。したがって、A自身に譲渡所得は生じず、Aの準確定申告(所法124・125条)に譲渡所得を含める必要はないと考えられます。
| 論点①の整理 | 譲渡所得の帰属(A死亡後に換価された場合) |
|---|---|
| (a) 換価分割=持分 | 譲渡所得は換価時点の持分保有者=Aの相続人に持分按分で帰属。取得費・取得日はB(原始取得者)から引継ぎ(所法60条1項)、取得費加算(措法39条)の余地もある。 |
| (b) 代償分割=金銭債権 | 現物を単独取得したC一人に譲渡益が集中して帰属。CがAへ支払う代金1/2は代償金(債務の弁済)で、代償金は取得費に算入できない(最判平成6年9月13日)。 |
相談者の「準確定申告をCが提出」という点について:CがAの相続人として準確定申告の提出主体になること自体は妥当です。ただしBの遺産の譲渡所得を、そのA準確に含める必要はない点を補正してください(Aに年金・不動産所得等、死亡日までの他の所得があれば、その分の準確定申告=相続開始を知った日の翌日から4か月以内は別途必要)。提出主体は妥当/譲渡所得は含めない点を補正
| 相談者の考え | 評価 |
|---|---|
| ① 評価基準日はA死亡日 | 妥当((a)(b)いずれでも) |
| ② 換価代金請求権として未収入金で一括計上 | ①次第 (b)代償分割説なら妥当/(a)換価分割説なら持分計上へ補正 |
| ③ A死亡日残高評価+資金移動確認+手許現金 | 妥当 「引出しは債権債務に解消」の見立ても(b)では筋が通る |
| ④ A準確をCが提出 | 提出主体は妥当 ただしBの遺産の譲渡所得は準確に含めない |
条文民法898条(相続財産の共有)/相続税法20条(相次相続控除)・22条(時価=相続開始時)・31条・32条(更正の請求等)/所得税法60条1項(取得費・取得日の引継ぎ)・124条・125条(準確定申告)/租税特別措置法39条(取得費加算)
通達相続税法基本通達11の2-9(代償分割の課税価格)・11の2-10(代償財産の価額調整 A×C/B)/財産評価基本通達203(預貯金)/所得税基本通達36-12(譲渡所得の収入すべき時期=引渡日原則・契約日選択可)
判例最大決平成28年12月19日(共同相続された預貯金債権は当然分割されず遺産分割の対象)/最判平成6年9月13日(代償分割で全部取得者が売却した場合、代償金は取得費に算入できない)/遺産分割前に共同相続人全員の合意で売却した場合は各共有持分に基づく譲渡となる旨の最高裁判例(判決日・出典は原典確認を推奨)
質疑応答国税庁「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」/「未分割遺産を換価したことによる譲渡所得の申告とその後分割が確定したことによる更正の請求、修正申告等」
タックスアンサーNo.4168(相次相続控除)/No.4173(代償分割の課税価格計算)
※ 上記のうち判決日・判例集の巻号は、引用にあたり判例データベース(裁判所HP等)で原典の直接確認を推奨します。通達・質疑応答事例は国税庁サイトでご確認いただけます。